新製品にも新発想。ゼクシオを例に

photo/H.TANAKA

前回前々回と現代のゴルフクラブ開発では「新発想」なるものが生まれにくくなってきた、と書いた。しかし、これは新しい発想だよね、と関心をそそられるアイデアも最新クラブには、まだまだ盛り込まれている。

「ゼクシオ12」と「ゼクシオX-eks-」のクラウン部にデザインされた“アクティブウイング”にも、その開発理由を聞いて、“新しさ”と感じた。

ゴルフクラブのエアロダイナミクスデザイン、いわゆる空力はかなり昔から研究され続けてきた。ウイルソンの古いカタログにも、ご覧の通り、スイング中のゴルフクラブにかかる空気抵抗をコントロールし、“ヘッドスピード”を上げて飛距離を伸ばす、エアロダイナミクスについて解説されている。

1939 Wilsonのカタログ。空気のスムーズな流れを示した図解は、なんとシャフトの説明。ヘッドだけでなくティアドロップシェイプのスチールシャフトが採用されていた。こういう斬新なアイデアはたいてい後出しのルール改正で潰される。
クラウンだけではなく、ソールも空気抵抗を減らすコンベックスデザインが採用されている。まさに流線型のパーシモンが80年以上前にすでにあった。

これは、1939年のカタログである。今から83年前だ。

空力デザインなんて昔からある発想なのに、なぜ「ゼクシオ12」「ゼクシオX-eks-」のアクティブウイングに新しさを感じたのか。それはアクティブウイングが空気抵抗を減らす目的ではなく、逆に空気抵抗となるように設計、配置されているからだ。

簡単にいえば、この突起に空気が当たることで通常なら開き(沈み)たがるヘッドの動きが抑えられ、理想的なダウンスイング軌道に、正しい傾きでヘッドを乗せやすくなるというのである。つまり、スクエアインパクトしやすくなってミート率が上がる。方向性も良くなる。

ウェッジのソールにバウンスをつけて、接地抵抗によってヘッド軌道を地中に潜る角度から振り抜け方向に導いていく。考え方としてはそれと同じことを、切り返し時に空気抵抗を使って実現しようとしているわけだ。

ヘッドスピードをアップ(飛距離アップ)するために、クラブヘッドデザインのエアロダイナミクスとは「空気抵抗を減らす」ためにあると何十年も説明を受けてきたが、理想的な軌道にヘッドを導くため、つまりミート率向上のためにエアロダイナミクスを活用し、しかもその方法が「空気抵抗を利用する(抵抗を増やす)」というのだから、まさに逆転の発想。聞いていて嬉しくなってしまった。

しかも、この突起は切り返し時のヘッドの角度に対して設計されていて、ヘッドがスピードアップしていく方向に対しては、抵抗にはならないという。飛ばしのための空力と安定のための空力が共存している。デジタルシミュレーション技術が発達した現代ならではのエアロダイナミクスデザイン。80年前にはさすがに思い及ばないだろう。

ヘッドスピードアップを目的に考えれば、ヘッドが受ける空気抵抗は「悪」となる。しかし、軌道の安定/ミート率向上を考えれば、空気抵抗も使い方次第で「味方」になる。新発想とは目的を変えることから生まれる。その好例なのではないかと思い、最新の「ゼクシオ12」と「ゼクシオX-eks-」を紹介した。

 

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在