今年の「全米オープン」を制したマシュー・フィッツパトリックは15歳の時からタイトリストの「プロV1x」ボールを使っているそうだ。他のボールを使うことなんて考えたこともないという。
フィッツパトリックだけでなく、「ジュニアの頃からずっと同じ銘柄のモデルを使っている」、「このボールでゴルフを覚えた」とコメントするトッププレーヤーはとても多い。
我々アマチュアゴルファーは、ついドライバーやユーティリティなど「飛び道具」に関心を寄せてしまうけれど、実際に飛んで行くのはゴルフボールだし、ボールがカップインしないとゴルフゲームは終わらない。クラブもスイングも「ボール」をイメージ通りに運ぶための手段/道具である。
では、そのゴルフボールはどのように進化してきたのだろうか? 例えば、全米チャンピオンが15歳からずっと「プロV1x」を使っていると言っても、「プロV1x」だってその間、何回もNEW!になっている。進化したものが同じモデル名で販売されているわけだ。
我々は「進化」と簡単に書いたり、言ったりするけれど、新しいものがすべての性能を一新して登場してくるわけではない。プレーヤーが変えて欲しくないところはそのままに、改善の余地がある部分は正していく。とくにプロの使用率が高いゴルフ道具の進化のあり方はそうである。全部が変わっちゃったら使い物にはならないのだ。
例えば、「プロV1x」。進化してきているのはドライバーをはじめとするロングショット、そしてロングアイアンでのスピン性能だ。強い力でインパクトされたときのバックスピンが抑えられるように変わってきている。風の影響を受けにくく、ロングアイアンで高さが出るようになっているといえるだろう。そしてもちろん、均一性や耐久性などもモデルチェンジ毎にアップデイトされているポイント。
一方、フィーリング(打感・打音)はなるべくキープ。ショートゲームでのスピン性能、パッティングでのタッチにも大きな変化が生まれないように配慮しながらモデルチェンジするというのが基本である。
この「プロV1x」の進化をみれば、上手い人たちが「変えてくれるな」と言っているポイントがどこにあるか明確だろう。ショートゲームでの感覚・パフォーマンスなのである。フィーリングがソフトなものがいいとか、バックスピンがより多くかかるものがいいとか、そういうことではない。ショートゲームにおいては「変わらないこと」が望まれるのだ。
それはなぜか? みんなそのボールを打った時の感覚に「慣れている」からである。このウェッジでこのライからこう打てば、こういうスピードで飛び出し、これくらい高く上がり、ファーストバウンドでこのくらい前に跳ねて、セカンドバウンドでスピンがキュっと入って、何ヤードで止まる。その詳細な寄せのイメージは、同じゴルフボールをずっと使い続けてきたからこそ描けるもの。そのくらいゴルフボールの性能の差、弾道の違いが明確になるのがショートゲーム(アプローチ・パット)なのである。
そんなこと気にするのはプロや上手い人だけ、という人もいるかもしれない。でも、私はこう思う。そんなことを気にするから、上手いのだと。
「全米オープン」を観ても、世界のトッププレーヤーたちが結構な確率でグリーンを外している。勝負はそこから。寄せてパーで凌げた者だけが上に残れるのである。ゴルフが上手いとは、グリーンを外しても寄せて1パットで上がれる、ということだ。
まずは今すぐ、「お気に入り」のゴルフボールを1銘柄だけイメージしてほしい。
そして、この先一年間、そのゴルフボールだけでゴルフをしてみよう。他の銘柄はたとえ練習でも使わないように。これが私のお勧めする絶対間違いのない、誰でも、今すぐにできる“プロの真似どころ”である。
ちなみにプロ使用球を真似しようとは言っていない。自分が使ったことのあるボールの中で、これいいなと思う銘柄があればそのボールで一年間ゴルフをしてみよう。