ツアーレップの仕事。

主な仕事は、“待つこと”。

前回は、ツアーレップという職業があることをご紹介しましたので、今回は、ツアーレップのお仕事を少しご紹介しましょう~。

ツアーレップの中にも、いろいろな担当がありますが、僕はクラブ担当でした。

仕事は試合のある週の火曜日朝イチからでした。時間でいうと6時半とか7時くらいから。まずは練習場で待機することから1日が始まりました。

そうなんです。

ひたすら待機する。これがもしかしたら仕事の主だったかもしれません。

契約選手が来るかどうか、事前に連絡を取り合っている選手などは来る時間がわかっている時もありますが、全員を把握することはできないので、来ない時間はひたすら待っていました。中には、練習熱心な選手も居れば、あまり練習されない選手もいましたし、シーズン後半にもなると、疲労もたまってきて、練習日は練習に来ないなんてこともありました。そうなると、一日中待ちぼうけなんてこともありましたね。

練習場に選手が来たときに、では、何をするかというと、主には現状確認です。前週の成績が良い選手は、選手も特に要望が無い時が多いので、いじらない方向で話をして、成績が悪かった選手は、何が悪かったかなどを聞き出したりしていました。その中でクラブの調整が必要な場合には、それをツアーバスに持ち帰って調整します。

たいていの選手は、日曜日に終わった瞬間から、次戦に向けて、クラブのことを考え出して、火曜日に会った時は、最初から、要望があったり、コースに着くなり、練習場に行く前にツアーバスに寄ったりする選手も少なくなかったです。商売道具ですから、こだわる選手はとことんクラブにこだわりますね。もちろん、シーズン中にクラブはいじらないという選手も少なくありません。

僕の場合は、やはり1年というシーズンの間には、体調変化や、季節性があると考えていたので、タイミングを見て、このあたりでこういう風に替えて行ったら、というような提案をする時もありました。

ツアー会場の練習場。ゴルフメーカー各社のツアーレップが選手の到着を待っています。

それから、新製品や試作品テストがあるときは、試してもらいたいので、選手側に要望が無くても、打ってもらうことも重要な仕事です。プロとの契約の主目的は、自社製品の製品性能のアピールですから、次の製品に対して、選手の意見はなくてはならないものですし、使えないものを無理に使ってもらうこともできません。なので、ある意味、この新製品や試作品のテスト依頼をする仕事が、ツアーレップの仕事の中で一番責任のある仕事だったように思います。

ところが、なかなか、本命の選手が現れず、来たと思ったらスタート時間がすぐで、テストにいたらなかったり、待っても待ってもテストにならない時もありました。まあ、待っている間に関係のない選手や契約外の選手に試してもらって、あらかじめ結果を予測できるようになることもありましたが。

試作品、新製品のテストをしてもらうこともレップの仕事。しかし、打ってもらうタイミングには気を使う。

そして、打ってもらっている間にも“待ち”があります。調整の結果や新製品、試作品の結果を聞くために、コメントが出てくるのを待ちます。これも選手によっては、すぐに言ってくれる人、じっくり打ってからコメントしてくれる人、それぞれですので、そのタイミングを待ちます。なかなか出てこない時は、誘導するときもありましたね。

また、若いころはなかなか言い出せなくて、中には怖い選手もいたので、試作品があることを気付いてもらうのを待つこともありました。選手には、上司やマネージャー経由で、テストするように依頼が入っている場合が多いのですが、調子が悪かったり、自分のクラブの調整に余念がない時などは、新製品や試作品に興味がわかない場合もあります。そうなると、打ってもらうのにひたすら待つということもありました。

もちろん、実際は1球だろうが、自分に合わないクラブを打つことはかなりリスクにもなります。それだけで、調子を崩す可能性もありますので。それだけデリケートな世界ですから、なるべく選手が打ちやすいように事前に調整することを心がけていました。

ヘッドのテストをするときは、今使っているスペックになるべく近くなるように、シャフトのテストの場合には、今使っている(あっている)スペックに近いものになるように選手を選んでテストしてもらいました。そして、待っている間も、ただ待っているだけではなく、何を言われても良い様に準備に余念はありません。情報もいろいろと入手しておきます。選手が何を聞いてきても、即座に答えられるように、そんなことを常に考えていたように思います。控えめに待っていて、必要なことを的確に伝えることを心がけていました。なかなかその域に達するまでは時間はかかりましたが。

待っている間こそ、やるべきことをやる時間。

そして、待っていることが仕事、そんな風に感じられるようになって、その時間を大切にするようになりました。もしかしたら、“待つ”ことをいとわない人、それがツアーレップに適したひとかもしれません。

この記事を書いた人

三瓶大輔

Cultivator/ DAISUKE MIKAME
(しごと)
93年よりブリヂストンスポーツゴルフクラブ開発部に所属。主に計測評価グループで同社ゴルフクラブのほぼ全モデル(J’s、 TOURSTAGEなど)に関わりました。01年に同社ツアー担当として渡米、日米のトッププロとコミュニケーションをとるようになりました。03年後半からはアクシネット(タイトリスト)に移籍。総合契約選手を担当する傍ら、若手発掘の一環として有望な学生たちとの交流も始まりました。09年よりウェッジ・パター専任となり、スコッティ・キャメロン、ボブ・ボーケイの2大巨匠から多くのことを学んでいます。現在はその経験を活かし日本国内でボーケイの哲学を広めるため、国内で唯一となるウェッジフィッティングイベントを毎週末開催。これまで担当したゴルファーはのべ1,500人を超えています。
(じぶんのどうぐ)
自分の使う“道具”にも相当こだわっています。ゴルフ歴37年、ありとあらゆるクラブ、スペックをテストしてきました。その経験も加味して、自分なりにゴルフクラブの理想像をもっています。JGA ハンディキャップ最高+1.4。慶応義塾大学理工学部卒。