聖地を守る花、アザミ。
久々に駒場東大前に足を伸ばし、日本民藝館を訪れた。手仕事による古道具が放つ美しさと、芸術性に目覚めた現代作家の情熱が入り混じっていて、いつ行っても愉しめる場所である。
とくに古民家特有のギシギシいう床や障子を透けてくる日の暖かさ、そして古いガラスを通してみえる風景の揺らぎは目の前を行き交う大勢の来館者の姿も見えなくなってしまうほど、芒とした気持ちにさせてくれる。30分ほどひとところに座ってしまった。
民藝館をあとに、ぶらり歩きながら仕事のある外苑前に向かう。井の頭線の線路沿いをいくと「べにや民藝店」の看板があった。もともと青山にあったはずだが、2017年8月にこちらに移転されてきたようだ。迷わず寄り道を決めた。
時節柄、日本各地のしめ飾りの展示販売が行われていたが、目に止まったのは小さな砥部焼のお皿だ。民藝らしいふわっとしたアザミの絵が描かれていた。アザミにはゴルフを感じる、そういう性分なのだ。
アザミは、スコットランドの国花である。13世紀ころまでバイキングの侵略に苦しんだスコットランドの地。闇に乗じて侵攻してきたバイキングの兵士が、アザミのトゲを裸足で踏み抜き思わず大きな声をあげた。このことでスコットランド兵は敵の存在に気がつくことができ、多くの兵の命を失わずにすんだのだそうだ。
実際にスコットランドのリンクスコースに行くと、アザミやハリエニシダなどトゲトゲ、チクチクの植物がメインの海沿いの地であることがわかる。大きく曲げてブッシュに突っ込めばボールがあっても手出しはできない。自然の有刺鉄線に守られたハザードだ。平和な時代となり、羊飼いたちが放牧のためにこれらの植物をあらかた抜き、耕し、牧草地を作ったのがきっとゴルフの、ゴルフコースの始まりだったのだなぁと推測する。
アザミは日本でもとてもポピュラーな花だ。風に揺れるその姿を見つけるたびになんとなくスコットランドのことを思い出す。そんな日はたいてい天気がよくて、この空も聖地に繋がっているのだなぁと思ったりした。
アザミのお皿を買い求め、民藝店を出るとやはり青空が広がっていた。歩くのがさらに気持ちよくなった。とても幸せな寄り道だった。