JR駅の喧騒を抜け、国道をまたぐと漆黒の闇があった。街灯も信号も家々の灯りも。当たり前の明るさはどこにもなかった。
路地の向こうに懐中電灯の灯りが一つ、上下に揺れていた。自分が育った家の周りはこうだったな、と想い出した。夜、一歩外に出れば、普通に、ありえないくらい、マットな闇だったんだ。
大規模停電。
一応「首都圏」でもこんなに暗くなるんだな、とちょっと驚いた。
リビングに横になると、月灯りが明るかった。入ってくる風が心地よかった。虫の声しか聞こえなかった。
電気がないとたしかに困る。でもそれは電気があることを前提とした暮らしだからだ。電気がなかったなら、暮らし方を変えるだろう。電気のない世界は、ありえないくらい静かだった。不便だけど、どこか穏やかだったかもしれない。
寝転び、月の前を流れる雲をみていた時、小さな懐中電灯の灯りさえ眩しく邪魔に感じたんだ。