倶楽部

世界有数のプライベート倶楽部がオーガスタナショナルゴルフクラブ

ゴルフ場の名称には、カントリークラブ、ゴルフクラブと付くケースが多い。カントリーとゴルフとの差は何?ということではなく、個人的には“クラブ”、あるいは“倶楽部”と付くことに、初心者が抱くゴルフにまつわる疑問や誤解を解くキーポイントがあると思う。

“倶楽部”。これを辞書でひいてみるとこう書いてある。

政治・社交・文芸・スポーツ・娯楽などで、共通の目的をもつ人々によって組織された会。また、その集会所。18世紀頃からヨーロッパで広まり始めた。

共通の目的をもつ人々によって運営されるプライベートな組織で、ゴルフはその人たちの娯楽の一部として発展した。「クラブハウス」とはまさにその会員が集うメインの施設であり、基本的にはメンバーだけが立ち入ることができるプライベートな空間だった。

セントアンドリュースのR&Aクラブハウス(筆者撮影)

ゴルフの聖地、スコットランドのセントアンドリュース・オールドコースの1番ティ、18番グリーンの奥にR&Aのクラブハウスがあるが、こちらは今でも世界有数の厳格なるMEMBERS ONLYのクラブハウスだ。メンバーでもメンバージャケットを着て、ネクタイをした正装でなければここには入ることができない。ゴルフの格好では立ち入り不可だと聞いた。

トムモリスショップの並びの赤茶色の建物がフォーガンハウス(筆者撮影)

メンバーが軽装だったり、ゴルフプレーの途中で休憩する建物は別にある。18番横の通りを挟んだ向かい側にある「フォーガンハウス」だ。筆者がR&Aの取材に行った時もクラブハウスには入れてもらえず、「フォーガンハウス」の2階の一室でインタビュー取材をさせてもらった。その際、“この部屋から絶対出ないで”、“キョロキョロしないで”とR&Aの職員からやたら念押しされた記憶がある。とにかくメンバーの目に留まらないようにしてほしい。というのが担当者の切なる願いなんだなと感じた。まさに僕らは招かれざる客、って感じだった。

ちなみに有名な「クラブハウス」にはR&Aのジャケットを着ている職員でも、おいそれと立ち入ることはできないと言っていた。海外取材にしてはきちんとした身なりで伺ったのだが、そういう問題じゃない。メンバーでさえゴルフウェアでは入れないのだから。

ちなみにR&Aとは、Royal and Ancient Golf Club of St. Andrewsのこと。まさに閉ざされた社交の場“、“クラブ”である。

職員のジャケットにはR&Aのワッペン。それさえも「クラブハウス」にアクセスできるフリーパスではないらしい(筆者撮影)

限られた人たちが創ったプライベートな世界、空間には独自のルールがある。R&AにはR&Aの、ミュアフィールドにはミュアフィールドの、オーガスタナショナルにはオーガスタの厳格なるルールが存在するのだ。本当に厳格なメンバーシップコースでは、基本的にはビジター(メンバー外の人)はクラブハウスには入れないし、メンバーの紹介や同伴がなければプレーすることもできない。ゴルフにはそれが当たり前の世界がまだまだある。ゴルフクラブはメンバーのために存在し、メンバーが出資しあって維持していくもの。成り立ちとしてはそういうものである。

プライベートクラブにとっては、ビジターとはお金を落としてくれるお客さまではなく、たまたまメンバーが連れてきた「部外者/訪問者」という位置付け。本来、そこにいるはずのない人だ。

日本のゴルフ場にも、一部厳しい“ドレスコード”を設けているクラブがある。受付時にはジャケット着用、短パンにはハイソックスを履いて、襟付きシャツを着用して!カーゴパンツはだめ、裾だしも厳禁、タオルのぶら下げ歩きNG、、、もっともっとやっちゃダメなことはたくさんある。ゴルフを始めたばかりの人の中には「お客さんに対して、要求ばかりするな!」と怒りたくなる人もいるだろう。

でも、R&Aを例に説明した通り、本来「クラブハウス」はメンバーのみが立ち入れる場所。クラブによってはメンバーでさえも正装でなければ長居をしてはいけない空間だ。そこに部外者として立ち入るのだから、どう考えてもTシャツにジーンズでよいはずはない。ゴルフコースに出てもやりたい放題でいいわけがない。自分の行動はすべて連れてきたメンバーの責任になるのだから。

たまに、ビジターだけでは決してプレーできないような名門クラブがあるが、そこでスタッフから服装の件で注意されるくらいならまだマシである。パブリックコースのように振る舞って、それがうるさ方のメンバーの目に留まれば、「あいつを連れてきたメンバーは誰か。そのメンバーを入会時に推薦したメンバー2人は誰か?」とチェックが入ることもあるという。自分の行いの影響がまったく関係ない推薦人(たいてい偉い人)にまで及ぶかもしれないと思えば、名門クラブでは努めて大人しく、慎ましくしていようと思わないだろうか。

それが嫌なら、わざわざ名門クラブには行かないことをお勧めしたい。

ゴルファーの裾野が広がると、メンバーシップとパブリックの違いを知らずに出かけてしまう人も増えてくる。ゴルフクラブでジャケット着用と決めてあるならば、部外者はそれに倣うほかはない。クラブとはそういうものだからだ。

今は、クラブと銘打っていてもドレスコードを撤廃したり、ビジターだけでのラウンド、セルフプレーをOKとするゴルフ場が多いから、たまたま厳格な感じのクラブに行くと、余計にびっくりすると思う。場合によってはスタッフの対応、言い方にムカムカ、イライラするかもしれない。高いビジターフィを払ってなお、いろいろ注文つけられるわけだから。

現実にドレスコードなしにするゴルフ場も増えているが、それとメンバー主体の伝統クラブを同じにしようというのは筋違いである。飲み屋さんにもいろいろあるではないか。

また、ドレスコードなしということをどう捉えるかも、人ぞれぞれ。自分の好きな格好ができる! とタンクトップでプレーしようと思う人もいるかもしれないし、そうは言っても最低限、ゴルフ場に相応しい格好はしなくてはいけないと思う人もいるだろう。決まり(ドレスコード)が設けられていない場合、その格好や振る舞いをみて人柄やセンスが丸見えになってしまう難しさも実はある。

個人的には、ドレスコードなしは、何でもありという意味ではないと思う。決まりがないだけで、他人を不快にさせない服装で過ごすという配慮は、複数の人が集まる社交の場ではゴルフに関係なく、自分の趣味趣向よりも優先されるものだと思うからだ。

社交の場、社会って自分勝手にはできないんだなって、最近すごく思う。スコットランドの名門クラブのあり方を見ても、そうだ。上に行けば行くほど、個人の勝手は許していない。ほんとに勝手が許されるのは自分の家の中だけである。

ああそうだ。家庭にも“厳格なる”ルールがある。生きるってそういうことか(笑)

自由ばかり望むと、ストレスが溜まる。

 

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在