カーボンフェースの話

テーラーメイド「ステルス」シリーズで大注目されている“カーボンフェース”。チタン材料ではなくカーボン系樹脂をフェースに用いるメリットとはなんだろう。

①フェースを軽量化できる

テーラーメイドによれば、「60層のカーボンフェース」にすることによって、フェースの重量を従来チタンの43gから24gにまで軽量化(チタンフェース比44%)することができたという。実際は同一形状のチタンフェースが使われたモデルはないので、あくまでも比較として重量差。これによって、軽いのに前シリーズのSIMドライバーよりもフェース面積を20% 拡大させることができたという。フェースが大きくなればインパクトでの均一なたわみによって高初速性能をフェースの広範囲で発揮することができる。 → つまり、寛容性が高まる。

②軽くなったぶん、他に重さを持っていける

フェースが重たいままだとなかなか深重心にはできないが、フェースがチタン比44%になっただけで相対的に深重心化が進む。また、浮いた重量を自由に再配置しターゲットゴルファーに合わせた様々な重心設計を実現することが可能。 → つまり、今後、今まで到達できなかった重心設計のヘッドができる可能性がある。

③カーボン積層でフェースの性能をコントロールできる

「ステルス」は様々なカーボンシートを60層に重ね合わせることで、「ステルス」がターゲットとするツアープレーヤーやヘッドスピードが速めのゴルファーに向けて、カーボンフェースのインパクト・リアクションを最適化している。市場に様々な重さ、剛性、トルク、重心特性を持ったカーボンシャフトが無数にあるように、素材の選定と部分配置、重ねの方向によって無限ともいえるバリエーションを生み出すことができるのがカーボン素材の特徴。これを使ってフェースを作れば、当然、「ステルス」用とは違った特長を持ったヘッドスピードが速くない人向けのカーボンフェースが登場してくることは容易に想像できる。 例えば、「ステルス・グローレ」なんていう日本市場向けシリーズが企画されれば、それ専用のカーボンフェースになってくるだろうと思う。

④初速性能の検査

現在のフェースの初速性能を検査し、ルール適合か判断している「ペンデュラムテスト」は、フェース材料が6-4チタンであった時の時代に考案され、ルールチェック用として採用された装置。鉄の小槌のようなものをフェースの決められた箇所にぶつけ、その接触時間を測るものである。素人考えだが、金属表面のものと、カーボンで表面をポリマーコーティングしているステルスのフェースでは、同じように計測しても接触時間は違ってくるのではないかと思う。→ 現・検査方法でカーボンフェースの本当の初速性能が見えているのかは不明。ステルスの登場でUSGA/R&Aも新しい初速計測方法を考えてくるのではないかと推察する。

⑤フェース全面に「溝」を切れる

これは私個人がカーボンフェースのメリットだなと感じたこと。ご存知の通り、最新チタンフェースは薄肉化競争の賜物だ。フェース重量を軽量化するともにしなやかなフェースのたわみを生み出し、広範囲で高い初速性能を発揮する。1ミリを切る薄さが、飛びの原動力になっているわけだ。しかし、薄さにもデメリットはある。薄いぶん、フェースに溝を刻むとインパクトの衝撃で割れやすくなるのだ。また、溝を切ればさらに薄肉になり、初速がルール上限を超えてしまう。

左は460ccのチタンドライバー。打球面に溝は切られていない。これが薄肉フェースであることの証明にもなる。一方、右はチタンヘッドだが230ccと小さく作られたもの。軽いチタン材料で小さく作ると肉厚は全体に厚くなる。そうしなければ軽くなりすぎるから。だから、余裕でフェース全面にわたる溝を切ることができるのだ。 → そこでもう一度上の「ステルス」のフェースをじっくり見てもらうと、打球エリアも含めしっかり溝が切られている(色は入っていないが)ことがわかるだろう。そして、2枚目のフェースパーツ単体を見ると、非常に分厚いものであることもわかる。これはシャフトでもそうだが、重たいスチール材料は軽くするために極薄に、軽いカーボン材料は剛性を出すために肉厚になるのが基本。フェースでも同じことが起きており、カーボンフェースの「ステルス」は溝を切っても割れにくいほどの、しっかりとした厚みを備えている。あまり気にされないところだが、これもカーボンフェースのメリットだと思う。

朝露の時間帯や雨天時など、フェースとボールの間に介入した水分を格納し、左右に逃がしてくれる。フェースの「溝」は文字通り、排水溝の役割を果たす重要なものである。

もちろん、溝が切っていないチタンドライバーの場合も、ボールやフェース面の水分をしっかり拭き取っておけば特に問題にはならない。マイ・ドライバーをチェックして、当たるところに溝が切られていない場合は「雨の日ラウンドでは要注意。拭かなきゃ」と覚えておいていただければ幸いである。

2022年、カーボンフェースが一気に注目されたから、従来通りチタンフェースで作っているとなんとなく「古い」みたいな感覚になるかもしれないが、軽量にしにくい金属で設計上十分な軽量化を果たしているブランドもあるし、フェースどころかヘッドのどこにもカーボンを使っていないフルチタンもまだまだ存在する。カーボンを使って理想のヘッド設計を目指すのも、音やフィーリングを大事にし、なるべくフルチタンで理想の重心設計に持っていこうと頑張るのも、同じ企業努力である。今のところ、各ブランドとも目指すところは同じ。ゴールにたどり着くプロセスが違うということだ。ちなみにPGAツアーでここ2シーズン、ほとんどの大会で使用率No.1なのはタイトリストの「TSi3」ドライバー、フルチタンのヘッドだ。

個人的には、ヘッド素材ばかりが注目される風潮は非常に残念に思う。「ステルス」を買ってダメだった人が、カーボンフェースはやっぱダメとか言っているのを聞いたことがあるが、たまたまその人が「ステルス」のターゲットゴルファーではなかったというだけかもしれないのにな、って思った。そして、違う重心設計のカーボンフェースドライバーが出たら、きっとこの人は「カーボンフェース最高!」と言うぞって思ったのだ(笑)

この素材にすれば飛ぶとかそういうことではないのだ。カーボンの優位性の筆頭は、どこまでいっても軽量化。軽くした結果、手にしたフリーウェイトをどのように、何の目的で使うのかがエンジニア(ブランド)の腕の見せ所なのだ。

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Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在