ひとつのものさし

5セント硬貨をパターのフェースにあててみる。古いコレクターにとっては極めてベーシックなテスト方法です。8802パターの“Nickel Test”と呼ばれます。

The Wilson 8802パターは1962年に発売された「ウイルソン デザインド・バイ・アーノルドパーマー」 がその原型であることはよく知られています。アーノルド・パーマーは61年にウイルソンとの契約を終えていたのですが、一年間だけという約束で自らの名を冠した「ウイルソン デザインド・バイ・アーノルドパーマー」 の発売を許可したといいます。

しかし、このパター。たった一年で販売終了とするには完成度が高すぎました。プロ、アマ問わずかつてない高評価がこのパターにもたらされたのです。たった一年で売るのをやめてしまうには惜しい出来栄えでした。

そこで、契約満了後の64年に同じヘッドで、違う名称で発売されたのがThe Wilson 8802でした。目的が「ウイルソン デザインド・バイ・アーノルドパーマー」の継続販売ですから、64年当時の8802はパーマーと同スペックだったといわれています。

8802は、ベン・クレンショー、グレッグ・ノーマン、ジョン・デーリーなど多くのトッププレーヤーに愛されます。そして、70年代、80年代、90年代と同じソールロゴデザインで復刻されまくったのです。このパターほど、絶版と復刻を繰り返したモデルはないでしょう。

残念ながら復刻のたびにヘッドは重たく、つまり大きくなっていきました。シンプルなソールロゴデザインは踏襲されているので、パッと見ではオリジナルなのかいつの復刻モデルなのかが見分けられない。そんな問題が発生します。とくに現物を手に取れないネットオークションでは、画像だけでオリジナルか復刻かを見極めなければなりません。売る方も同好の士というかマニアな場合が多く、妙にオリジナルっぽい雰囲気の写真を載せていたりするのです。オリジナルだろう!と思って落札したのに、届いてみたらどうみても復刻版だった。そういう経験をしたコレクターが非常に多かったわけです。

そこで登場したのが“Nickel Test”です。

1964年製8802のフェース高さ(センター)は23ミリ。フェース面の範囲は約20ミリでした。米5セント硬貨(通称:Nickel)の直径も20ミリ。オリジナルを見極めるには格好のフェーススケール(ものさし)だったわけです。

そして、64年製8802の証としてフェースセンターに5セント硬貨を置いた写真を撮って、オークションに出品するのが当たり前になったわけです。下記は実際にebayで出品されていた8802の紹介画像です。同じ8802と刻印されたパターでも年代によってフェースの高さがこれほど違ってくるのです。ちなみによく出回っている90年代の復刻版は、上から2番目。5セント硬貨を置いたらかなり余白が際立つラージサイズヘッドです。

80〜90年代、オリジナルから逸脱し続けていくThe Wilson8802に対し、64年製に近いシャローフェースで復刻を試みたのが、クリーブランドゴルフ。つまり、ロジャー・クリーブランドさんでした。ベン・クレンショー、コーリー・ペイビンといったテクニシャンがこのクリーブランド版パーマーで活躍したのです。

同じモデル名で似て非なるものを作ってしまった本家Wilson。オリジナルを研究し、忠実なる再現を目指したCleveland。大事なのは昔の名前で発売し続けることではないことが証明されてしまいました。

本家ほど自分たちが作った過去クラブの素晴らしさについて知ることをしないのかもしれません。あるいは、変えることが進化だと思い込み、無理にモデファイを重ねてしまうのかもしれません。

変えるべきではなかった大切なポイントはどこか。新しいゴルフ道具への手がかりは古いモノの中に隠されています。

名プレーヤーが愛した道具そのものが、優れたゴルフ道具を測る、ひとつのものさし(基準)でもあるのです。

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Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在