
ドライバーヘッドの自主制作から始まった「MOE86」は、結局アイアン、フェアウェイウッド、ウェッジにまでその裾野を広げることになった。いや「作ることになってしまった」と言った方が制作者の心情とすれば正しいかもしれない。
最初は確かに、他のクラブに対して飛び抜けて長尺で、ヘッドが明らかに大きく、ひときわ軽量で、軟らかいシャフトが装着された現代ドライバーの違和感を払拭するため、軽量チタンヘッドを自主開発したのが始まりだった。
そして、振りやすく、他の番手(クラブ)との首尾よく繋がった、どこにも売っていない185gの軽量チタンヘッドが完成した時に、このプロジェクトは終了したはずだったのだ。目的は達成した、
「もう、これでええやろう。」と。
しかし、実際はそれでは終わらせてもらえなかったのである。ティショットが軽量ヘッドでハマり始めると、他の番手も同じコンセプトで揃えたくなるのは人情だ。「他のアイテムはないの?」 愛用者から声が上がった。
じゃあアイアンも作ろう。アイアンができたらウェッジも、せっかくならばフェアウェイウッドもやるか、となっていった。面白みは、クラブ同士の繋がりを考えて始まったモノ作りが、最終的にはMOE86というコンセプトクラブを媒介としたゴルファー同士の繋がり、コミュニティへと育っていったこと。
ついには、MOE86を大切に売っていきたいという同志も現れた。
「もうええやろう。」
作り手がそう思ったところから、新しいゴルフのストーリーが始まっていく。
物語は道具ではなく、人が紡いでいくものだ。

