細身で深重心なANSER。
なんでカーステンさんは、パターのネックをこんな鍵型にしたんでしょうね。T字やL字が主流だった60年代に、コレを作ってツアー会場に持っていったのですから。ものすごいバイタリティです。「どうしてプロはデザインド・バイ・パーマー(8802)ばかり使うのだ。それを超えるものを作りたい」。その一念でANSERは生み出されたという。
HEEL-TOE BALANCE
ヘッドの先とヒールを重たくする構造は、カーステンが広めた慣性モーメント拡大の偉大な策だが、この鍵型にクランクしたANSERネックも文字通り進化の鍵だといえる。
ANSERの原型を改めてみると、ソール幅は狭く、今のぼっちゃりマレットに比べたら非常にオーセンティックに感じる。このヘッド自体は見た目の通り、そんなに深重心にはなっていない。しかし、このヘッドが「鍵型ネック」によって、シャフト軸線よりもかなり後方に位置するようになっている。しかもさらにセットバックするようにネックを開き、スラント気味にもされている。これがカーステン最大の発明であり、天才的なところ。普通の重心のヘッドも後方に取り付ければ深重心と同じことになるのである。
カーステンはブロンズ、ステンレス、ベリリウム、ニッケルなど素材違いの同型ヘッドを用意したが、これは同じ形でも金属の比重によって周辺重量配分効果をコントロールできるからだ。当然、ベリリウムのような高比重金属の方が慣性モーメントを高めることができる(これについてはまた別の日に書きたいと思う)。
今日の注目ポイントは、カーステンが素材とは別に、同じ形状のモデルでネック違いを用意したことだ。例えば、クランクネックのANSER2とショートスラントネックのANSER4のように。ネック重量の違いで重心距離を変えられ、オフセットの違いで深度(重心角)も変えることができる。つまり、これがストローク中のフェースの開閉の違いとなり、軌道のアーク(円弧)の違いになるのである。ストロークアークの大きさをゴルファーにフィッティングさせる。それはANSER誕生から50年をすぎた現在でも、PINGがパターフィッティングの根幹にすえていること。すべてのパターにそのパターが描きやすいアークの大きさがラベルで示されているのはそのためだ。
60年代のはじめ。新しく完成したパターを手に、そのネーミングについて思案していたカーステンにルイーズ夫人はこういったとされる。
「そのパターがデザインド・バイ・パーマー(8802)を超えるために考えた答えならば、名前はANSWERにすべきよ」。
そして、名前はANSERとなった。しかし、カーステンはそれが一つの答えにしかすぎないことを知っていた。ANSERは、2、3、4、5、そしてXといくつものバリエーションとなって広がっていった。どれがいいかなど、答えは人それぞれに違うのだ。メーカーは選択肢を示すのみ。正解はゴルファー自身が決めるのだと。
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現代を生きる我々も、道具選びに関してはそうした視点に立ちたいものだ。正解は与えられるものではなく、自分で見極めるもの。自分のANSWERを見つけるプロセスが、実は最も愉しい時間なのだから。