長く使うほど、かっこよく育つ。
S20CとかS25Cという種類の炭素鋼がアイアンヘッドには使われています。ステンレスに比べて軟らかいとされており、そのぶん、曲げやすく、折れにくい素材だといわれます。ロフトやライ角度を調整しやすい、といい換えても差し支えないと思います。
なので、逆にロフトやライ角度を調整しないのであれば、軟鉄にこだわる必要はないというエンジニアや識者が多いです。よくいわれる「軟鉄鍛造ならではの軟らかい打感」は、素材の硬度ではなく、製法でもなく、マッスルのような分厚いフェース厚に起因するものであると。たしかに薄い軟鉄鍛造フェースがマッスル打感かといえばそうではないですね。マッスル打感はマッスル肉厚ならではのものだと私も思います。
でも、ステンレスと軟鉄ではやはり軟らかさが違うと思うのです。それは「見た目」の違い。ここでは勝手に“視覚硬度”と名づけます(汗) 軟鉄鍛造のマッスルアイアンを数ラウンド使っていくと、クラブ同士がカチャカチャ当たって細かい傷がついていきます。このアタリ傷が鏡のようなミラー仕上げの強い光を、マイルドにしていくのです。硬いステンレスは簡単には凹まないため、軟鉄のような光と影のコントラストは愉しめません。当たったところが黄色っぽいスジになり、汚いヘッドになっていくだけなのです。
見た目から受ける印象は、ときに振動から感じ取るフィーリングを超えて作用します。軟らかそうに見えれば軟らかいフィール、硬く見えれば硬いフィールだと、見た目のままに評価されることも珍しくはないと思うのです。
“視覚硬度”などというと、「またマニアックなことを」と一笑に付されることも多いわけですが、アイアンのブラスト面の色が薄い、濃いだけで打感は違ってくる、そんなことを比較的真面目に考えています。PING EYE2も硬いberyllium copperのほうが軟らかいといわれたりしますが、これも“視覚硬度”が軟らかいからだと思います。
で、最初の寄木のコースターはなんだったのか?
使い込むごとにアジが出る、傷さえ愛おしくなる素材が私は好きです。そう言いたいのです。大事に手入れしながら、長く使うほどに愛着が増す「育っていく道具」がいいなぁと。とはいえ、道具を長く使うのもひとつの才能でありまして……。そろそろひとつの道具に絞って、じっくり残りのゴルフ人生を愉しんでもいいんでないかい?と、自分自身に問いかけている毎日です(笑)