絶滅クラブ

NEW APEX MB/CBアイアンでは、PW番手はなくついに10番表記に

アイアンをストロングロフトにするのはいいとして、なぜウェッジであるピッチングまで立てちゃうのかな? とずっと疑問に思っている。サンドウェッジのロフトは54°〜58°の間で変えないのに。

本来は、グリーン周りで使うことを念頭に特別な設計思想を入れて作らないと、ピッチングウェッジとは呼べないはず。アイアン番手と一緒にストロングロフトにして行っちゃったら、それはもう単なるアイアン。10番アイアンである。そういう意味では、APEX MB/CBでPWをやめて10番表記としたキャロウェイは潔い。正直、名前だけのピッチングだったらいらんのである。

歴史的に見れば1930年代前半に、「ジーンサラゼン・ピッチングアイアン」が登場する前の状態に戻ったとも言える。それまでは9番の次は10番アイアンだったのだから。

バンカー専用のサンドアイアンと共に、寄せのスペシャリストとして登場したのが「ジーンサラゼン・ピッチングアイアン」であった。これはそれまでの10番とは全く違うもの。セット外のユーティリティクラブである。

1934年のウイルソンカタログの説明文である。注目したのは wedgelike formな傾きのあるソールが特徴で、60ヤード以内で使うことを前提としていること。ロフトは50°以上あったとされ、最も振り幅の大きい60ヤードならピッチショットに。グリーン近くに行けばピッチ&ランで寄せられる。そんなイメージのクラブだったに違いない。

wedgelike form/くさびのような形

この説明文で使われた言葉が、のちに「Wedge」というカテゴリーの名称になったのかな? そんなふうに考えると実に面白い。

ともあれ、道具の成り立ちを知るというのは、とても大切なことなのである。PWが元々60ヤード以内で使用する寄せ専用のクラブだったと知っていたなら、開発者はそのロフトを40°とかに立てようとするだろうか? PWのロフトは据え置きとし、ストロングロフトにした結果、9番とPWの間にギャップができてしまったなら、そこに「10番」を追加する。そう考えるのではないだろうか?

道具の成り立ちから考えれば、それが自然であり普通。そして何より真っ当。

もちろん、今でも市場には「P」という刻印が打れたアイアンクラブが溢れている。しかし、それは寄せのスペシャリスト「ピッチングウェッジ」として開発されたものではない。フルショットにおいて9番よりも一番手飛ばないアイアンなのである。

残念ではあるが、サラゼンが提案したオリジナルのピッチングウェッジは、すでに“絶滅”している。もちろん、PWの役割はウェッジラインのギャップウェッジに引き継がれているのは間違いないが、果たしてボールを止めるために工夫されたウェッジラインの50°で「ピッチ&ラン」がやりやすいのか? ロフトを合わせただけではクリアできない問題がそこにはある。

詳しくは、10月発売のゴルフダイジェスト社「Choice」をお読みください。

 

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在