究極のアンサー

1960年代の初め、PINGを興したカーステン・ソルハイムはヒール・トゥバランスのオリジナルパターを携えてPGAツアー会場に赴いていた。ある年のロサンゼルスオープンから帰宅したカーステンは、すこぶる機嫌が悪かったという。夫人のルイーズがその原因を聞くと、カーステンはこう言ったという。

“どうしてプロたちは皆、アーノルド・パーマー型のパターばかりを使うのだ!”

アーノルド・パーマー型のパターとは、ご存知ウイルソンのL字パターである。1962年に発売されたオーバーホーゼルのモデルで、厚めのトップラインと均衡のとれたフランジが美しいモデルだ。カーステンはアマチュアゴルファーの視点で、どうして難しいT字やL字のパターを皆んなで使うのか、常に疑問を持っていた。1959年にPINGを設立したのも、もっとミスヒットに寛容でアマチュアでも好結果が得られるパターを作ることができる!と考えたからだった。それなのに、60年代に入ってもなお、トッププレーヤーは“パーマー型”ばかりを使っていた。その現状を見てカーステンは「絶対にパーマー型を超えるパターを生み出してみせる!」と心に決めたのだという。

そして、1966年に納得のいくオリジナルモデルが完成する。「ANSER(アンサー)」である。

アンサーとは「パーマー型を超えるパター」の具体例、エンジニアとしての答えという意味を込めたネーミングだった。それがあなたの出した答えなら、ANSWERと名付けるべきよ。ルイーズ夫人の助言でモデル名が決まったという、有名な昔話である。

ウイルソンのパーマー型が無ければ、「ANSER」も無かったかもしれないと思うととても面白い。そして同時に、パーマー型に興味がわいてくる。なぜ、カーステンが悔しがるほどプロは皆、パーマー型を愛したのか? ベン・クレンショー、コーリー・ペイビン、グレッグ・ノーマン、フィル・ミケルソン、ジョン・デーリーetc、90年代に入ってなお、なぜ多くのメジャーチャンピオンにこのパターが愛されたのか? 実に興味深いではないか。

ちなみに、日本ではマグレガー「トミー・アーマーIMG5」が誉れ高いがこれはジャンボ尾崎の黄金期を支えたパターだからだ。世界的にも、ジョージ・ロー「スポーツマン ウイザード600」が名パターの筆頭に挙げられるが、これも帝王・ジャック・ニクラウスのエースパターだったからだ。この2本はパターそのものというより、偉大すぎるワンプレーヤーの功績によって“名器”の称号を手にしていると言える。パーマー型とは使い手の幅が違うのだ。

ウイルソン デザインド・バイ・アーノルド・パーマーは、1962年に一度発売されただけである。これはパーマーとの契約の問題。ウイルソンとパーマーは1961年に契約を終えており、パーマー型パターは1962年の一年だけという契約で発売されたのだ。このパターは評判を呼び、もったいなくなったウイルソンは「The Wilson 8802」という名前に変えて63年以降も販売を続けた。それをクレンショーやノーマンが愛したのだ。

70年代〜80年代は、アメリカでクラシッククラブブームが巻き起こっていた。とくにジュニアゴルファーの親たちは、子供の試合で全米を転戦する合間に、古いプロショップを巡って質のいいパーシモンドライバーとアーノルド・パーマーパター、60年代初期の8802を探しまくったという。初期モデルは生産量が少なく、個体差が少ないというのが主な理由だったらしい。

確かに、のちに出る無数の復刻版8802は、時代によってヘッドの形、重さが様々だ。全体では大型になりヘッド重になっていく傾向があった。シャフトも硬めになっていった。

60年代のオリジナルの復刻にこだわったのは、ウイルソンではなく80年代のロジャー・クリーブランドだ。彼は見事にオリジナルのパーマーを習作し、クレンショーにも認められている。

2000年代に入った今、クラシックブームは去り、パーマー型もスコッツデール時代のデールヘッド「ANSER」すらも注目されることはなくなった。たまに名器特集などと称して雑誌の企画が組まれたりすれば、やっぱデザインド・バイですよね〜、スコッツデールですよね〜となったりするが、そんなのは全然本物じゃない。これぞ名器!とか言ってる人で実際に長くこういうパターでゴルフしている人は見たことがない。

こういうモノの価値とは、名器だからとかじゃないのだ。最新モデルにはない「何か」、そこにこそ価値がある。では、それは何?

一つはヘッドの重さだろうと思う。クラシックパターは今に比べて軽量。そしてそのわりにホーゼルが長い。

それによって、最新パターと何が変わるのか? これは実際に打ってみて「感じて」欲しいことだ。答えは人それぞれだ。古いものを打てば、新しいものの正体もわかってくる。それが面白味である。

そういえば、80〜90年代、カーステンはどんどん「ANSER」のヘッドを軽くしていった。これは、どうしてなんだろう?って思う。ヒール〜トゥのウェイト配分だけでなく、ヘッドの重さというものにも何かしらの意図が必ずあったはずだ。キャメロンの350gが流行ってから市場には重ヘッドパターしか無くなってしまったが、歴史に名を残すエンジニア、カーステン・ソルハイムは年々軽ヘッドにしていったのだ。そこに彼が辿り着いた究極の「答え」があったのではないかと考えずにはいられない。

いずれにしても答えは一つじゃないし、時が経てば正解が変わったりする。誰かが決めた名器ではなく、自分のアンサーを見つけることを楽しみたい。面白味の一つは、ここでも「ヘッドの重さ」であると書いておきたい。

最後期の軽ヘッドアンサーを「名器だぜ」とも言わず、ずっと使ってる人こそ、実は本物の目利きなのかもしれない。

 

 

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在