風前の灯火

どんな図面を描いても、土を押し、踏み固めてくれるオペレーターがいなければゴルフコースは作れない。

平らに押し均すことが本来の目的であるブルドーザーを斜面で自在に操りながら、美しいアンジュレーションを描けるオペレーターは限られる。粗押しをD5やD3でしておいて、仕上げは小型のD2でするのが定番だ。小さなバンカーの船底やエッジを踏み固めるときには個性が表れやすく、構造の違いからくる回頭性などからコマツ派とミツビシ派にわかれた。

図面を読み土配して、設計者の意図や癖を理解して、自然の景をお手本にしながらマウンド造形の頂点位置や裾の広がりに変化をつけたものだ。自然界にはお椀のような山は皆無である。ジャック・ニクラウスやピート・ダイらのチームからも所謂シェーパーと呼ばれたオペレーターも来日はしていたが、器用さは日本人オペとは雲泥の差であった。彼らはギャノンスクレーパーという牽引タイプでの仕事を好み、ブルドーザーの排土板をチルトさせての複雑な造形はしなかった。押して作るアンジュレーションは引く作業では作れない。

晴れた日にさっとバック引きして湿地キャタの跡を消すのも、腕利きオペたちの証でもあった。もうそんなオペたちも殆どが機械を降りている。クッションの効かないキャタピラのブルは内臓が揺さぶられ、食欲のまま飯を食べると大概は胃を悪くする。腕利きオペは昼食は軽くしていた。その分夜は長かったけれど・・・・。

令和も5年になった。あと何人意のままにブルドーザーを操れるオペが残っているだろうか。ちらほらゴルフコースの改修工事はされてはいるけれど、残念ながら新しいオペレーターが育つ気配は今のところない。

 

この記事を書いた人

八和田徳文

Cultivator/Norifumi Yawata
ゴルフの仕事に携わって四半世紀。ゴルファーの一人として、ゴルフコースデザイナーの一人として、ゴルフに纏わる想いを綴ります。肩の力を抜いて愉しめばゴルフはもっと面白いはず。
ゴルフコース設計家・ゴルフ文化愛好家・芝生管理アドバイザー