振り返るとなんてことない景観に見えているだろう輪厚コース5番ホール。ANAオープンでのセカンドショートカットで名物化された17番ホールよりも個人的には遥かに好きだ。井上誠一という設計家がどう考えたのか、残された手掛かりとなる文字や画は限られているのだが、18ホールを通して歩くとわかることがある。
専門家にも同業後輩の方々にも評判がわかれる井上誠一という人物は、繊細で洒落た人だったのだろうと思う。雑誌に書かれた薄っぺらい言葉では表現できないような、絵心のある人だったのだと思う。提出したマスタープランを自ら再配置したなかで生まれたホールのリズム、ここが輪厚の良さのひとつであろう。
打ち下ろしの右ドッグレッグ、セカンドからは徐々に上り傾斜がきつくなる。60年前に既に大木だった栗の木を残し、その奥にグリーンを配置した。身体が温まった5番目のホールだから配置できるレイアウトだ。
タイトなアップヒルの4番ホールを終えて、この景観を目にしたときにドライビングショットをどこに落とせるか。実力以上に欲をかいたり心が大きくなったとしたら、右懐のハザードで苦労するだろう。
緩急のあるホールロケーションを広いだ狭いだというゴルファーも少なくはないが、心の揺さぶりも設計家が意図するところ。そのあたりに気付くと無駄に木を植えたり切ったりしなくなるだろう。
この大蛇のようなツルウメモドキは5番ホールのティ脇にそっといまでも生えているのだが、輪厚コースが誕生したころから太かった。井上誠一も創設者たちも伐らなかった、大切な一本だ。朝日を浴びて赤い実が今年も輝いていた。