私が信州・松本に行くのは、連なる山を眺め、融雪湧き出す清らかな川のほとりにボゥッと座りたいからである。また、街場で「文化」を感じたいからでもある。
松本には信大があるが、あがたの森に保存されている旧制松本高等学校校舎はその信大の前進。休日、中庭のベンチに座っていると、コーラスや管弦を練習するしらべが聴こえてきてちょっと豊かな気持ちになる。国宝に指定された「旧開智学校」が、文化レベルの高い風土を生み出した基盤なのだろう。「学都」を標榜するように、学(知識)こそ資源と考える風土がある。
美術館、博物館も多いし、工芸の五月〜クラフトフェア、松本民芸館、松本民芸家具など「民藝」の街としても知られている。私もクラフトフェア、松本民芸家具、ちきりや民芸店から松本の街が好きになったミーハーの一人である(汗)
松本で芸術家といえば草間彌生がその筆頭だろう。ドット柄の周遊バスが街に溶け込んでいる。今年亡くなった柚木沙弥郎も旧制松本高等学校で青春時代を送ったことから縁が深い。今でもさまざまな店舗やホテルで柚木の作品がパッケージやロゴとして使われている。草間と柚木、そして音楽ではセイジ・オザワ。まさにその道の第一人者が松本と深い縁で繋がっているのである。
しかし、しかし。個人的には松本の芸術家といえば「三代澤本寿」である。上の雑誌「民藝」の表紙に使われているのは、三代澤本寿の代表作「絹の道の枝垂桑」であるが、私はこの屏風絵を見た瞬間から三代澤の大ファンとなった。デザイン、色彩、「質感」、そのすべてが好きなのである。
型染絵といえば織布に施されるのが通常だが、三代澤の作品には和紙に染められたものが多い。その和紙への愛情が作品の「質感」に大きく関わっているのだ。
「私らは誰に教わらずとも和紙の良さを知り、また直ちに知ることができる日本人であると思う。折に触れ、いとも美しい生漉の和紙を手にした時、それが初めて見る紙であっても、どこかで見たように感じるのは私のみではないだろう。和紙は私たちの故郷の紙であり、触感よりも血に感じる紙ではなかろうか」(三代澤本寿/民藝688号和紙の有難さから引用)
和紙には豊かな表情がある。それはまるで本革のシボのようである。松本に行くたび、三代澤ギャラリーで買い求めてくる染色和紙のハギレを眺めているだけでも、三代澤のいう「血に感じる紙」であることを実感する。この魅力ある土台に、優れた図案と色彩が展開されているから三代澤作品はパーフェクトなのである。
ここでも三代澤作品をたくさん紹介したいところだが、著作権の問題もあるのでやめておく。実際に松本のギャラリーに行ってじっくり観ていただきたい。ホームページでも代表作を観ることができるが、できれば和紙の質感も含めて実物で感じてもらいたいところだ。
2024年5月2日〜6日は「松本市美術館」で三代澤本寿展が開催される。普段は観ることが出来ない初公開の個人所有の作品もあるという。早く知っていれば、訪松の日程をズラしたのにな、と残念に思いつつこれを書いている。
いずれにしても、もう少し広く知られて欲しい、三代澤本寿の「感性(センス)」である。