黄砂に霞む常念岳を額に収めた。2月に撮った日向灘のグラデーションとトーンが合う。私以外にはよく見えないが、私にはくっきりと見える「まぶたの裏の景色」というのが、最近お気に入りの創作テーマである。好きな常念岳の光景なら、目を瞑るだけで鮮明に見ることができる。正直にいえば、写真など飾らなくても、松本に行かなくても、いつでもどこでも観ることが可能だ。ただし、そうなるまでには実際に何度も「この目で」観ることが不可欠。視覚だけではなく、音、風、温度、エピソード。実体験がリアルな光景を甦らせる材料になる。
自分で経験して、自分の肌感覚で判断していく。それ以上に確かなものってあるのかな?って思う。何を美味しいと感じ、何を美しいと想い、何が苦しく、そして愉しいのかを。自分に聞かずに誰に聞くのだろうか。ひとり漏らさず他人とは違うのだ。比べたりせず、自分に聞くようにしたいと最近思うようになった。
とかく、人の意見が見えてしまう今だからこそ、ひとり目を瞑って浮かび上がってくる風景を大事にしたい。自分以外には見えなくて当然。見せなくてもよい、確かなもの。自分が美しいと思うものが美しい。