バウンスと人工芝の話

アイアンに比べ、ソール後方にかけて角度が大きく付けられているのが「ウェッジ」の特徴

ハイバウンスがいいのか、ローバウンスがいいのかと、昔からよく盛り上がっているようだ。

「ハイバウンスウェッジはソールが地面に跳ねる」という人もいる。跳ねる。バウンスが地面に当たってヘッドが上にポン!とジャンプしてしまうような感覚か? V字軌道? ヘッドが降りてきて急激に跳ねて!みたいなことが起こっているのだろうか?

 

バウンスというのは「抵抗」だというのが、私の解釈。

シャフトの短いウェッジのようなクラブはライ角度がアップライトで、ヘッド軌道も鋭角になりやすい。ダウンスイングからインパクトにかけては、地面深くに潜っていく角度でヘッドが降りてくる。つまり、このままスムーズに、たとえば成功した高飛び込みのごとく地中にスポっと分け入っていったなら、ヘッドは当然地面に潜り振り抜くことはできないだろう。この状態をヘッドが刺さるという。抵抗がなければ刺さるのだ。

そこで。開発されたのが「バウンス角を付けるというアイデア」を取り入れた、ロフトの大きなアイアンクラブ。それが「ウェッジ」だ。バウンス角をソールにつけるとソール後方がいち早く地面に触れる。そうすると地中に潜る角度で降りてきたヘッドの進行方向が、振り抜きたい方向へと変わるのだ。

つまり、バウンスとは地面に潜る方向に対しての「抵抗」だ。ソール後方がワンタッチすることで、ヘッドの進む向きを変えてしまう「方向変換機」ともいえる。素晴らしい発明ではないか。

ヨットの帆は、意図的に風という抵抗を受けることで進むスピードと方向をコントロールする。船の舵も水中のフィンが水の抵抗を受けるからこそ、進路を変えることができる。飛行機もF1マシンも。高速で進む乗り物はすべて、ウイングやフラップなどに角度をつけて、空気抵抗を利用して安定した走行を可能にしている。

「抵抗」というとスピードを落とす悪いやつ、というイメージがあるかもしれないが、「抵抗」もうまく利用すればスピードをもプラスにできる。ウェッジを地中深く刺してしまったならばスピードは激落ちするが、バウンスによって進行方向を変えてあげれば、ヘッドスピードは大きく落ちることはないのである。

よく練習場に人工芝マットならうまく打てるのに、という人がいる。そして、それに対して「当たり前だよ、マットは滑ってくれるので多少ダフってもうまく当たっちゃうんだよ。だから本当の練習にはならないね」と、したり顔で解説するゴルフ先輩もいるだろう。

先輩のいうことはもっともである。人工マットはゴム板でいくら鋭角にヘッドが入ってきても、ヘッドが刺さったりしない。多少ダフったとしても、ヘッドは潜らずに振り抜き方向に進むのだ。これを「地面がハイバウンスの状態」と解釈する。地面自体が大きな「抵抗」であり、この場合ヘッドに「抵抗」がなくてもスムーズに振り抜くことは難しくない。ローバウンスのクラブでもいいのである。

では、練習場ではうまく打てていたのに、ゴルフコースではなぜダフってしまうのか。それはゴルフ場は「地面がローバウンスの状態」だからと考える。この場合、地面に「抵抗」がないからゴルフクラブ側にバウンスという「抵抗」を持たせなければいけない。どっちかに抵抗がなければ刺さるからだ。

バウンスがあって跳ねる感じがするとすれば、それは特に弾みやすい人工芝マットの上で、かもしれない。「抵抗」に「抵抗」をぶつければ反発しあうはずだからである。しかし、ウェッジは砂やラフなど、抵抗がないヘッドの潜りやすいライに対応するためにわざわざ開発された特別なクラブなのだ。ロフト角が大きいからウェッジというのではなく、「ソール抵抗がアイアンよりも強い」ことが、アイアンではなくウェッジと別で呼ばれる意味なのである。

ソール幅が広ければ、バウンスの角度が大きくなる。ソール幅が広ければバウンス角は小さくなる。なぜならワイドソールにするだけでヘッドは潜りにくくなるからだ。角度だけでなく「幅」も抵抗の一つなのだ。

上級者がよくやるフェースを開くアプローチも、バウンス(抵抗)を増やすため。高く上げたいだけではない。

人工芝だったらうまく当たるのに。そんな経験がある人は、天然芝の上ではクラブ側に抵抗がついていてくれないとヤバイんだ、ということが理解できると思う。ちなみに、ボールをフェースの面にきっちり乗せるためにも、バウンスを使ってフェース正面でボールを迎え入れることが必要。ウェッジをうまく打つためには、抵抗を活かしてヘッドの進行方向を変えてあげないといけないのだ。

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在