職人気質

焼きは一生だよ、そうおやじさんは優しい口調で語る。指がこうでね、櫛が打てなくなったんだよ。幸い息子が継いでくれてね。なんて話を聞きながら小一時間お茶の時間をたのしんだ。

ハレの日に店を閉めている店が旨いとさえ言われるこの頃、にわか仕込みの鰻屋が増えた。金さえ出せばなんとかなるという風潮は相変わらずであるし、金さえケチる輩も少なくない。当然だが旨いものなんて食えるはずないだろうとおもう。物事には道理ってものがあって、そこを端折ったら大概品質は落ちる。

手間仕事を継ぐ人がえらく減っている。なんでもそうだが手間を惜しんでいたら良い仕事にはならない。デジタルな世界で片付く範囲のことはそうでないのかもしれないが、人間の心が満たせるようなものは作れない。

 

天然であろうが養殖であろうが生きものには個性がある。皮の質も身の質も脂の乗りも一様でない。直火の遠火で丁寧に焼かれたそれは冗談抜きに旨かった。明治から伝わるタレを継ぎ足しながら半世紀、おやじさんの心意気は息子に引き継がれていた。

 

 

この記事を書いた人

八和田徳文

Cultivator/Norifumi Yawata
ゴルフの仕事に携わって四半世紀。ゴルファーの一人として、ゴルフコースデザイナーの一人として、ゴルフに纏わる想いを綴ります。肩の力を抜いて愉しめばゴルフはもっと面白いはず。
ゴルフコース設計家・ゴルフ文化愛好家・芝生管理アドバイザー