
自分の弾道を愛せるか。
もやもやした時に、読み返すページがある。それはゴルフ雑誌の編集者だった前職時代に書いた、最後の特集だ。ゴルフクラブの愛し方と題し、11年のメーカー取材などで心に残ったことを16ページにまとめたものだ。
この結びには、こう書いてある。
この11年、自分が訪れたすべてのメーカーのエンジニアが、常に放たれたボールを見つめていた。読者の皆さんも、飛んでいくボールを見つめてほしいと思う。どんなヘッドが合うのか、どんなシャフトが合うのか、どんな風にカチャカチャを使えばいいのか。自分が放ったボールだけが、その答えを知っている。青空に伸びていくボールの軌跡がきっと、ゴルフクラブの“愛し方”を教えてくれる。
新しいクラブに接し、難しい新理論と出会っても「そのすべては飛んでいくボールの状態を適正化するために編み出されたこと」、そう思えば何も悩まないし、もやもやが吹き飛んでしまうのだ。
適正化、と書いた。
適正とはなんだろう。みんなと一律の数値を目指すこと? さて、それはどうなのだろうか。私はゴルファーそれぞれに、それぞれの適正があると思う。完璧を目指すも一考だが、人がなんと言おうと、自分自身が満足できる弾道がそこそこ出たなら、それでよいのではないか。そう思うのだ。

16ページの最初と最後のページは、ボールのテストが行われる広大なフィールドをメインにした。中面はゴルフクラブの写真で溢れているが、最初と最後は、今見ても不思議だがクラブが写っていない。その雑誌の取材で初めていったのがジョージアにある、ボールのテストサイトだった。そして、11年経ち最後に行ったのも、古くからあるボールのテストサイトだった。それは本当に偶然だ。
ゴルフクラブの進化を追いかけていたはずだが、大事なのはクラブではなく、ボールの飛び姿を見ることだと最後に書いた。そして、それをどうしたいの?と自分に問うことが、愛すべき道具に巡り会う出発点になる、と書いて終わったのだ。
時々、それを思い出すために読み返す。よくわからないが、読んでいるとなぜか毎回、涙が出てくる。ゴルフ場の空にゆっくりと飛んでいくボールを想像するだけで、なんか泣けるのである。
新製品の発表ラッシュが続く1月。目新しいテクノロジーに興味を惹かれ、それに支配されそうになる。そんな時に読んでいる過去記事。自分自身の気持ちを忘れないようにしたい。そう思う。