
初ボーナスで私は「ミズノプロTN-87」を買った。25万円くらいしたが、上野コトブキゴルフのショッピングローンを利用してなんとか手に入れたのだ。
なぜかわからないが、ミズノのMマークに赤いアンダーバーが入ったバックフェースデザインに強烈なかっこよさを感じた。青と赤の配色を含め、ベン・ホーガン「パーソナル」にかなりの影響を受けていることに気づいたのは結構後の話。なんの予備知識なく、このアイアンを眺めた時に「あぁ、なんてかっこいいんだろう」と思ったのだ。
愛読書のゴルフクラシックで「中嶋常幸のアイアン変遷特集」が組まれた。「TN-87」に至る開発背景から、キャビティデザインの「TN93」へと。どのようなプロセスを辿っていったのかがレポートされていた。
その特集ページに小さく掲載されていた角版写真に、私は心を奪われた。それは「TN-87」が完成する直前のプロトタイプの写真。マッスルのトゥ部は完成品のようにカクッと切れ上がったりしていなかった。トゥ先に向けて緩いカーブを描きながら抜けていく。何よりもフラット部との間にできる段差のコントラストがかっこよかった。分厚い帯のように溜まった影が完成品にはない力強さを放っているように思えたのだ。

「TN-87」の開発がスタートするきっかけを作ったのは、ブリヂストンの「ジャンボMTN3プロモデル」だったわけだが、私が見惚れたのは、おそらくミズノが「ジャンプロ」を習作するかたちでとにかく作ってみた初期のプロトタイプである。バックフェースのカーブと影の溜まり方がいやでもジャンプロを思わせた。
ゴルフクラシックの「プロモデルアイアン」特集には、当時湯原信光、米山剛、天野勝、富永浩らが使うMマークアンダーバーのプロ支給モデル、通称湯原モデルが度々載っており、こちらのかっこよさにも惚れ込んだ。中嶋特集の角版写真、プロモデルアイアンの世界特集の湯原アイアン。デスクにはいつだって2冊のゴルフクラシックがあり、いつでもページを開けるようにしていた。会社勤めをしていた期間はずっと。会社を移っても常に。

これらのアイアンには「金型がない」と聞いたのは、取材でミズノの養老工場に行った時だった。これらのアイアンを削っていた張本人から聞いたのだから、確かである(笑)。つまり、万能ヘッドからの完全ハンドグラインドということ。この時点で我らがこれを手にいれるチャンスは「ゼロ」である。憧れは憧れのまま。ゴルフクラシックの中に封印されることになった。
それでも、常に頭の片隅においておけば。巡り合えるものである。
実はMマークアンダーバー、つまりハチナナ刻印のカスタムアイアンは結構存在しており、ネットをみていると時折、オークションに出品がある。多くの場合は90年代の市販モデルをベースにしたもので、養老で別注を受けて刻印を施したものだ。それでも、プロパーの刻印よりも断然かっこいい。だから、見つけたら多少無理してでも買ってきた。そうやって我が手元にやってきたハチナナ刻印マッスルは15セットはあるだろう。
その中で3セット。まったく違う存在感のものがあった。市販にはないマッスルのカーブを持ち、市販よりもフェース自体が明らかに分厚い。他社品も含めて手にしたこともないヘッドだった。これらを手にした時、「あぁ、終わったんだ」と思った。
思えば叶うのだ。
ここまで焦がれるアイアンに、もう出会うことはない。
