
「未体験ゾーン」とはよく使われるコピーだが、今夏の実験「バブルシャフトをウェッジに挿してみたらいいんじゃないか?」は、まさにこれまで経験したことがないほど従来品との「違い」がわかるものだった。
バブルシャフトはそもそも手元側を大口径(ビッグバット)テーパー設計にすることで「専用グリップを薄肉化(30g台)」することに成功したカーボンシャフトである。手元が軽くできればその分の重量を他に持っていくことができる。
バブルシャフトの特徴であるグリップ先端下の「くびれ」は、内圧をかけることで部分肉厚を精緻にコントロールすることができ、その形状の効果をも使って「つちのこ」部に重量が集中するように作られている。なぜそうしたのかといえば、軽量カーボンでも重量級スチールと同じような「テンポ」で振れるようにするためだったという。
上級者はスチールシャフトを好み、カーボンシャフトを使いたがらない。とくにアイアン、ウェッジではいまだにそうで、カーボンシャフトメーカーは積層にラバーを使ったりして「カーボンなのにスチールみたい!」を何とか実現しようと頑張っている。ユーザーにしてみれば重くてスチールライクのカーボンなら、スチールを使うのかもしれないから、個人的には軽くてスチールみたいな!を目指すことがカーボンシャフトらしい向き合い方かなぁと思ったりしているところではある。

さて、「バブルシャフト」だが、こちらはグリップを含めた重量でシャフト側で何ができるかを考えているところが素晴らしいと思う。この場合であれば、全体重量を増やさずに重量配分(肉厚分布)を考えることが可能になるからだ。私などは普段からおまじないのようにグリップ先端下に鉛を巻いているタイプであり、そうするとタイミングがなんだかとりやすくなることは知っている。でも、今回のバブルシャフト実験をしてみて感じたことは、いつもの鉛テープ巻き作戦と、バブルのそれとはまったく違うということだった。
単に部分的に「加重」したのと、手元側を「軽量化した上で部分加重」したのとでは振り感がまったく違うのである。
重さを足すためには、あらかじめ引いておくことが肝要。そうすることで、単に足しただけのものとは明らかに違う効果を生み出せる。
バブルシャフトの開発者、ブノア・ヴィンセント氏に話を聞いた時、「バブルは失敗だったね。それはスイング中にシャフトの一部が潰れすぎてエネルギーロスをしてしまったからだ。シャフトを変形させるということにもエネルギーは使われ、煙のように消え去ってしまうのだ」と言っていた。
今回はその言葉を覚えていたので、「それならば」と、あえて飛距離やスピードを問わないウェッジならば逆に最適なのではないか?と思い実験を企てたのだ。
ちなみにヘッドはボーケイ・デザインSM8の56°と52°にしてみたが、56°でスウィングウェイトはD1.5だった。スチールシャフトではヘッドが重たく感じすぎるので、それこそグリップ先端下に鉛テープを巻いていたわけだが、バブルシャフトではその必要もなしだった。
感覚的には、右手でボールをトスするように打っていける。いつもよりフェース乗りもいいのでスピンも効くし、ちゃんと距離も出る。
ブノア氏が「失敗だった」と言ったのは、あくまで最大飛距離を目標とするウッド用のシャフトとしては、だったのではないかと思う。でも、アイアン、とりわけウェッジ用(あるいはパター)のシャフトとして考えていたなら、むしろ「大成功」だったのではないか。そう思うほど、結果がとてもよいのである。
とはいえ、
これがよくてもバブルのアイアンシャフトがそこらで売っているわけでなし。多くの人にとっては「いいと言われてもね……、で?」ということである。停滞感があるゴルフクラブ開発において、まだまだ研究する余地がたくさんありそうということを少しだけでも感じてもらえたなら、こういう実験にも少しは価値があるのかな…(的な)。
やってみて、なんでコレはいいのだろう? それを突き詰めていくことでもっといい方法、もっといいパフォーマンスを生み出せるはず。飛ばしには効かなかったけど、コントロールには効く。開発史の中で葬り去られた膨大な設計理論の中にはそういうものも多いのではないかと思う。
