デッドストックの歪み

タイガー・ウッズがデビュー当時に愛用していたゴルフボールが、タイトリストの『プロフェッショナル90』だ。ウレタンカバー/糸巻き構造のボールで、プロV1が登場する前のNo. 1ゴルフボールである。

先日、そのデッドストックを1ダース見つけ、資料として購入した。やっと見つけた感があって届いた時は少しわくわくしたのだが、箱から取り出してみて驚いた。これはカレーパンマンだよね? くらい歪んでしまっていたのである。

おそらく内部で糸ゴムが切れてしまっているのだと思う。四半世紀以上の時が経っているわけだから、ゴムが劣化するのは仕方のないことである。とくにウレタンは意外にも水分を通しやすいそうで、それが内部に浸潤してしまうことがあるという。水分が糸ゴムの劣化を早めた可能性もある。そういうこともタイトリストがウレタンカバー/ソリッド構造のプロV1に大きく舵を切った一因なのだな、とこの歪んだデッドストックを見ながら考えていた。

昨年、インタビューした現タイトリスト ゴルフボール社長のメリールー・ボーンさんは「プロV1の革新は、ケース層と呼ばれるミッドレイヤーをカバーとコアの間に設けたこと」だと言っていた。薄い樹脂の層で水分をシャットアウトし、コアのパフォーマンスを均一に保とうとしたことが、3ピース構造の始まりだったというのだ。

その副産物として得られたもの、それが驚きの飛距離性能だった。硬めのミッドレイヤーがカバーとコアの間に入ったおかげで初速も増し、外剛内柔効果が高まって低スピンで飛ばせるようにもなった。アプローチスピンはウレタンカバーがバラタ同等以上を保証してくれる。

防水効果のために採用された極めて薄いミッドレイヤーが、結果的には「飛んで、止まる」というゴルファーの夢(わがまま)を叶えてしまったわけだ。

ゴルフボールには消費期限がある。古いパターはいつまででも使えるけれど、ボールだけはヴィンテージを使ってはいけない。新しいものを使おう。

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在