C.P.O.I.

名器なんて言われるパターには、どこかに優れたポイントがあるんだろうな。と信じている。

とくに、「多くの」名手に選ばれていたパターには、だ。

クラシックL字パターの名器といえば、ジョージ・ロー「WIZARD 600(Sportsman/Bristol)」やマグレガー「トミーアーマーIMG5」、そしてウイルソン「The 8802」が有名だ。

「WIZARD 600(Sportsman)」は、ジャック・ニクラウスの活躍によって。「IMG5」はジャンボ尾崎の活躍によって“名器”と呼ばれるようになった。凄すぎるONE PLAYERのエースパターだったことで、クラシックパター界の至宝みたいな存在になったのだ。この2モデルの共通点は、その他の選手にあまり人気が出なかったことでもある。

「The 8802」は、アーノルド・パーマー監修で61年に登場。パーマーとの契約が切れた62年以降は「8802」という型番で長く販売された。このモデルの愛用者はグレッグ・ノーマン、ベン・クレンショー、ジョン・デーリーが有名で、オリジナルに忠実な同型モデルの使用者には、コーリー・ペイビンやフィル・ミケルソンがいる。いまだにメジャーパターブランドがL字タイプをラインナップする場合は、「8802」をベースにしたようなカタチとなることが多い。

つまり、「8802」はとてもポピュラーなL 字パターなのである。

では、この「8802」はどこがいいのか?

フランジが広めで安心感がある。厚めのトップブレードで方向性を取りやすい。アドレスした時の座りがいい。

手持ちの2本を構えてみての単なる感想だ(笑)

でも、打ってみると超いい「8802」とそうでもない「8802」があることに気づく。1本は狙ったラインに乗せやすく、1本は左に打ち出しやすい傾向があった。

私はアドレスする前に、ヘッドを胸の前に浮かせて構え、ヒールを下にしてヘッドを上下に動かしてみる。こういう動きをやってヘッドの重心を感じるのが癖になっているのだ。ラインに乗せやすい一本はしばらくヘッドを上下に動かしてもフェースの向きは変わりにくく、引っ掛ける1本はフェースが閉じる方向に回りやすいことがわかった。

写真のように、重心アングルも引っ掛けやすい方(右)が大きいように見える。

ヒールを下にしてヘッドを上下に動かす時、とくにヘッドが地面方向に落ちていく時は、より自然な重力に任せるようにしている。そうするとヘッドが閉じたがったり、開きたがったり(こうなるヘッドは少ない)、スクエアのまま動きやすいものがあることがわかる。手持ちの「8802」でラインに乗せやすいのはスクエアのままで上下動、引っ掛けやすいのは閉じたがるものだった。こういう遊びをしている時、ふと、キャロウェイのディックさんの言葉が思い出された。

「クラブヘッドにはそれぞれ動きたい方向があるのです。それを慣性モーメントといいます。でも、慣性はヘッドの上下左右にだけ働くものではないんですよ。完全な球体でない限り、形状によって上下左右と、それに交差する方向に働くモーメントが発生するのです。たとえば、いくら下敷きを頭上に向かって一定方向に回転するように投げたとしても、その回転が止まり落下してくるときには必ず斜めに捻れながら落ちてきます。それが交差する慣性であり、下敷きが本来動きたい力の方向なのです。Cross Products Of Inertiaを考えて作らなければ、決して振りやすいヘッドにはならないのです」

プレーヤーが動かしたい方向とヘッド(クラブ)が動きたい方向がマッチするのがおそらく理想だ。手持ちの「8802」を複数の人に打って貰えば、その評価はきっと割れるだろう。人によって動かしたいヘッドの方向は違うからだ。もちろん、クラシカルL字ではなく、ネオ・マレットパターのような動きの方が心地よく感じる人もいると思う。

「8802」を打っていて思い出したのは、自分にも、パターにも、動きたい「方向」があるのだということ。それはパターに限らない。ドライバー、アイアン、ウェッジすべてのヘッド(クラブ)に「動きたい」方向がある。それと自分の動かしやすい方向、振っていきたい方向を合わせるのが、クラブフィッティングだ。

クラブの動きたい方向を力づくで制御しようとしても、なかなかうまくはいかない。なにしろ今のクラブは「高慣性」なのだ。小手先で太刀打ちできるようなものではなくなっている。

その代わり、巨大なヘッドのモーメントが自分が振りたい方向とマッチした時、それはそれは力強い味方となる。PGAのプレーヤーはきっとそんな感じでクラブを使っているのだろう。

逆に怪我が絶えないプレーヤーはきっと、クラブを力づくで制御しようとしている。怪我は高慣性モーメントに負けてしまった証しだと思う。

クラブの慣性に自分が同調するか。自分の慣性にあうクラブを探して使うか。いずれにしても、自分と道具の慣性が合わなければうまくはいかない。これが道具選びの分岐点だ。

この記事を書いた人

CLUBER

Cultivator/ Yoshiaki Takanashi
ゴルフの雑誌作りに携わって20余年。独立起業してから5年が過ぎたモノ好き、ゴルフ好き、クラフト好き、信州好きな、とにかく何かを作ってばかりいる人間です。
ポジション・ゼロ株式会社代表/CLUBER BASE TURF & SUPPLY主宰/耕す。発起人
記述は2018年現在