Iconic hole

この景色に圧倒されて身体が竦むのか、冒険心が擽られるのか。このゴルフコースを好きになるか否か分かれるホール。水平距離で130ヤードも飛ばせばフェアウェイに届く。斜めにセットアップされたフェアウェイのどこに球をおとすのか、風との相殺も考えるのが醍醐味のひとつ。
50ヤードを超えるこの幅に落とすことだけを考えればそれほど難しくない。海側に傾斜したスロープラインを意識すると左サイドを狙いたいけれど、セカンドショットは海沿いからが有利だ。自分のボールを見つけた瞬間毎回ホッとする。この緊張感の緩急が心地よい。
150㎡ほどの小さなグリーンは奥側に傾斜。囲うバンカーはないけれど海側の草原までの距離は15ヤードに満たない。グリーン手前100ヤードまではアップヒル、そこから先はダウンヒル。ティーショットの落としどころの重要性の意味が後からわかる。

 

ゴルフ雑誌でベストパー4とかの特集があるけれど、この佐世保沖の宇久島にある平原ゴルフ場が名を連ねたことは無い。川奈富士にも大島にも素敵なシーサイドホールはあるけれど、海をどういう角度で景観に取り込むか、いろんな観点から推考するとこのホールが劣るとは言い難い。

グリーンまで空中を遮るものは何もなく、350ヤード正確に飛ばせばホールインワンもありうるが、風も計算に入れてその距離を打ちこなすのは無謀であろう。ただし判断をするのは人間であって、コースには一切の制限を受けてはいない。

ゴルフは耳と耳の間でするものだ、その言葉の意味が分かりはじめたら、ゴルフが途端に面白くなる。ゴルフは創造性をもって遊ぶゲームであり、既定路線を正確に狙うだけの可罰ゲームではない。

特に優れるのは、このホールに辿り着くまでの3ホールとのバランスだ。比較的単調なミドルを2ホールこなし、身体がほぐれたころ急激なアップヒルのショート。だいたいはショートホールで大叩きして苦笑い。その次にこのホールが待ち構える。

 

3番ショートホールのグリーンから後ろを振り返った景色。この開けた景観にこころが解放される。青い海、青い空、白い雲、遠くにこの先ゆくだろうホールが見渡せる。ここでワーッとならないゴルファーはあまり知らない。フォトジェニックとはこのことだろうと思う。

 

この後も印象的なホールが続く、そして9ホールを終えて、4番ホールのことを思い出し、もう一度チャレンジしたくなる、そういうホールだ。メモラビリティーの重要性を説くコース評論家がいるが、9ホールの中の順番まで意識して選定しているだろうか。

アルバムを聴くのと同じよう、一曲だけを取り上げてベストソングとすることは可能だけれど、アルバムのなかで活きる名曲もある。個人的にはそういう意識もあって、平原ゴルフ場4番ホールは愛すべき名ホールだと思う。ちなみに設計者、名無しの権兵衛。

メガソーラーに消えるコースだけれども、幸いにして未だ原形を留めている。不便な場所ではあるけれど、そこを乗り越えてみる価値のあるゴルフ場。余命はあと僅か。

 

日帰りも不可能ではないけれど、若手メンバーが営む井原旅館で海の幸を堪能することをお勧めする。なにせ釣り愛好家には堪らないメッカあり。五島沖の魚を特別リクエスト、予約時に是非!

 

 

 

この記事を書いた人

八和田徳文

Cultivator/Norifumi Yawata
ゴルフの仕事に携わって四半世紀。ゴルファーの一人として、ゴルフコースデザイナーの一人として、ゴルフに纏わる想いを綴ります。肩の力を抜いて愉しめばゴルフはもっと面白いはず。
ゴルフコース設計家・ゴルフ文化愛好家・芝生管理アドバイザー